メディア日記<龍の尾亭>

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『ヒューマン・ファクター』グレアム・グリーン 早川書房−グレアム・グリーン・セレクション−
『ヒューマン・ファクター』グレアム・グリーン 早川書房刊を読んで。



グレアム・グリーンの評判は聞いていたけれど、手近に本が無く、読まないまま今日まできてしまった。

今回、週末気軽に読める「スパイ小説」はないか、とたまたま入った駅ビルの本屋さんを徘徊していて目に留まったこの1冊。

いや、参りました。もっともっと早くに読むべきでした。

降参です。ハラハラドキドキのアクションと逃亡劇、追っかけに銃撃戦など満載のいわゆる「スパイ物」とはおよそ対極的な、そう、この本の直前に紹介した『新世界より(上下)』と比較すると、もう「静謐」というか「日常」というか、実にほとんど何も起こらないに等しいお話です。

しかし、ほとんど大きな事件は起こらないのに(『新世界より』と死ぬ「生物の数」を比較すると、ほとんど眩暈がするほど差があります)、そして荒唐無稽なトリックなど何もないのに、すっと人間の描写が、その表現が「ズレ」ただけで世界が違って見えてくる。
小説を読んでいる満足に、いつのまにか満たされていきます。

しかしもちろんこの本はあくまでエンタテインメント。
週末に読むスパイ小説、を期待して読んでさえ、十分に満足を与えてくれるものでした。しかし、それだけでは勿体ないテイストでもありましたけれど。

第一に、文章がいい。無駄なく、簡潔で、しかも不可避に想像力を高めてくれる文体です。人間について考える、ということが、小説の大きな仕事だったことを(そして最近は小説を読んでもつい忘れがちになることを)思い出させてくれます。
小説が週末に読める喜びは、エンタテインメントのDVDをレンタルすることとは違う種類の喜びだということを思い出させてくれる1冊。もちろんそれは、文章を読む快楽、の話です。

小説に慣れていない人は別にして、小説好きな人にはぜひお勧めしたい1冊。読まなくても、買っておいて本棚の隅に、いつか読む本としてストックしておいても損はしません。
読む本がなくなった夜にこの本をたまたま、そう期待もせずに開く人がいたら、と、想像しただけでぞくぞくしてきます(笑)。

| Foxydog | 小説 | 19:56 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |









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